灯影の家 灯影の家
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影という光

琺瑯製のペンダントライトが、ぼくと妻が囲むダイニングテーブルに
オレンジ色のやわらかな光を落とす。
静かな夜の時間に、ぼくらのいる場所だけがぼんやり浮かび上がるその様子は、
なんだか離れ小島にいるみたいだな、といつも思う。

今日の晩酌は、ちょっと珍しい白のピノ・ノワール。
おつまみは、お気に入りのグローサリーストアで買ったチーズとピクルス、
そして最近ふたりで観に行った映画の話だ。

「あのヒロイン、すごく魅力的だったね」
「うん。同じ女性から見ても、ミステリアスで素敵だった。
人って影があるところに魅かれるのよね、なぜかしら」
影か。ふと手元に目をやると、ワイングラスから伸びる薄い影が
テーブルの木目に2つ、3つと重なり合うのが美しいことに気づいた。
ああ、見えなくするだけじゃない、うっすら見えるのも影なんだな。

「影って、ほんとうは光だからかもしれないね」
完全に思いつきだ。でも妻は興味深そうに、ぼくの話に耳を傾けてくれる。
「つまりね、影って単に黒い闇じゃないんだと思う。
光を完璧に遮ることって難しいでしょ。だから影にはいつも多少の光が混ざっていて、
ちらちら垣間見せたりする。それが想像力をかきたてるから、影は魅力的なのかもしれない」
「うんうん、その見方おもしろい」

ぼくらはもう何年も夫婦だけど、考え方はけっこう違う。
結婚当初は意見の食い違いから、ぶつかることも多かった。
こんなふうにゆっくりと好きな映画について語り合うようになったのは、
この家で、このあたたかな灯りの下で、晩酌をするようになってからだ。

「ちなみに、ぼくらの間にも、まだ隠された一面ってあるのかな」
「それはあるでしょ。あなたには言ったことないけど、
私おばあちゃんになるまでにやりたいことがたくさんあるんだから」
「え、初耳。たくさんって、どれくらい?」
「片手では足りないくらいかな」
妻はあれもこれも…、とつぶやきながら指折り数えている。
ん、ちょっと待って。その感じだと、両手でも足りなさそうに見えるなぁ。

「でも、今は教えないけどね」
「オーケー。そのほうがミステリアスで素敵です」 

Plan

灯影の家

■敷地:229.74㎡(69.49坪) ■建物:1F 71.33㎡(21.53坪) 2F 44.71㎡(13.50坪)延べ 116.04㎡(35.03坪)

Design concept

光を纏い、
灯りをともす

「灯影の家」の設計思想

Produce: akihiro yamaguchi
Architect: ryohei takemori

小堀建設営業部 山口晃弘

小堀建設 営業部
山口晃弘

小堀建設営業部 竹森僚平

小堀建設 設計部
竹森僚平

―「灯影の家」は、1棟ずつコンセプトを持つモデルハウス「コンセプトハウス」として公募された社内コンペで採用されたものだと伺いました。

竹森: はい、設計担当と営業担当のペアを組んで挑むコンペだったので、私が山口さんに声を掛けました。土地と予算と想定するお客さまのざっくりとした家族構成が決まっている段階でのプレゼンテーションでした。そこから詳細を膨らませていくにあたって、パッシブデザインを色濃くコンセプトに反映し、「光」を主役にした設計はどうだろうと考えました。
山口: パッシブデザインというのは、太陽の熱や光、風といった自然のエネルギーを住宅に利用する設計手法です。小堀建設は、パッシブデザインをテーマにした住居の提案を基本にしているんです。

―「光」をテーマにしよう、と決めたところから、どのように実際に設計に反映していったのですか?

竹森: 建築士が設計担当として入るからには、土地を見て周りの環境を反映した設計にすることは大前提です。光の入り具合や視線などは必ず考えますね。建築予定地は国道50号線の大通りから1本入った角地なのですが、土地を見に行ってみると、大通りから家が見えるな、と気がつきました。夕方、暗くなりはじめたころ家路に着くと、国道50号線から曲がろうとしたとき、わが家のダイニングがペンダントライトでふわっと照らされているのが見える ― そんな夕景が目に浮かびました。そこで、大通りから見える場所に主役となるペンダントライトをつけたい、という構想からはじまりました。
山口: 通常は、お客さまにご要望をヒアリングするところからスタートしますから、この発想の順番はコンセプトハウスならではですね。

―「光」に関して、他に意識された点は?

竹森: 私はいつも建物の設計と同時に、外構のイメージも考えます。今回は、ダイニングの掃き出し窓の前に植栽をする想定で設計しました。木を植えると、外からの視線を遮り、日の光が木漏れ日となってダイニングに届くので、自然の光が何倍も情緒あるものになります。メンテナンスの関係で、木は植えないという選択をする方も多いですが、設計士の立場では、ぜひ室内から木が見える風景を楽しんでほしいという願望があります。大きな吹き抜けがあるので、昼間は上から光が降り注ぐような感じになるのも気持ちがいいと思います。自然の光を浴びて不快に思う人はいないですよね。
山口: 室内の照明計画も、コンセプトハウスならではのアプローチをしたんだよね。
竹森: そうですね。どうしてもお客さまと相談しながら照明を決めると、暗いのが心配だというお声が多く明るめの設定になるのですが、「灯影の家」は全体的に照度を落とした提案をしています。少し暗めの落ち着いた夜の雰囲気も楽しんでほしいという理由からです。インテリアコーディネーターと相談しながら、玄関はダウンライトではなくブラケットライト(壁付けライト)にしたり、リビングの上にはまぶしさを軽減したグレアレスダウンライトを採用したりしています。

―間取りや内装の特徴は?

竹森: ペンダントライトを吊るすダイニングを南側に計画する関係で、リビングを北側に配することを選びました。通常の設計ですと、リビングを日の当たる南側に持ってくることが多いのですが、北側にリビングというのも、落ち着いた光のなかで、ゆったりくつろげるのでいいものです。カーテンを開けっぱなしにしても通りからは見えないですしね。
山口: 意外と来客時はリビングではなくて、ダイニングで集まるパターンもよく聞くしね。
竹森: そうですね。あと今回は、畳リビングにしたのも特徴です。畳の周りはタイルにして、ソファやテレビボードなどの家具も置けるようにと考えました。お客さまから、リビングに隣接して和室が欲しいとリクエストされることが多いのですが、予算の都合上実現できないことも割とあって。だったら、リビングと畳の部屋を一体化してしまうのはどうだろう、という私からの提案です。それに私には3歳の子どもがいますが、リビングでくつろいでいるときもソファには座らず、床に座ったりゴロゴロしたりしていることが多いのです。そんな様子を見て、リビングを畳にしてもいいんじゃない?と考えました。
山口: あとは……コンペで設定されていた、ご主人さまの趣味が読書というのを、2階ホールに反映したんだよね。
竹森: はい、2階ホールの吹き抜けを見下ろせる位置にカウンターを設置して、背面には本棚を。ここで本を読んだり、テレワークをしたりできるといいなと設計しました。子どもたちが宿題をするのにもいいですね。
山口: 家事動線はこれまで竹森が設計した家で、お客さまから人気があったものを採用しています。
竹森: 最近は内干しするご家庭がほとんどなので、洗濯して、ランドリーでそのまま干して、一直線上にファミリークローゼットを設けています。洗濯動線を短くするのは、大前提として意識しています。

空間計画のアイデアスケッチ(灯影の家)

空間計画のアイデアスケッチ(灯影の家)

山口: お客さまは、見学会で実際にご覧になった家を参考になさることが多いので、自然と弊社で建てる家は似た間取りやテイストのものが多くなる傾向があります。そういった意味で、コンセプトハウスが設計士からの提案の場になるといいなと思っています。部分的にでも、お客さまに「こういうのもありなのか」という風に感じていただいて、これからの家づくりに取り入れてもらえたらいいですね。

竹森: そうですね、設計士を信頼して、「あとはお任せします」なんて言ってもらえたらいちばん嬉しいですね。

―性能や機能はいかがですか?

山口: 性能は、気密断熱耐震いずれも、小堀建設が自信を持ってご提供している標準仕様のものです。床下の断熱材は、旭化成さんのネオマフォームを使用。下から上がってくる寒さ対策として床の断熱材は北海道の基準値の1.3倍のもの、実に8㎝も厚みがあるものを使用しています。耐震は許容応力度計算による耐震等級3を取得できるよう、設計しています。
竹森: 水廻りなどの設備は、標準仕様より少しグレードアップしたものを入れています。ちょっと背伸びをすれば届くくらい、という想定です。
山口: このコンセプトハウスは、間取りや設備などが等身大の家ですから、これから注文住宅を考えていらっしゃる方に、リアルな家づくりの参考にしていただきたいと考えています。
竹森: 見学に来ていただく際には、ぜひ夕方~夜にも訪れていただきたいです。漏れ出る灯りが美しいはずです。こんな家に帰りたいなと思ってもらえたら嬉しいです。

(インタビュー 2024年3月)

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●「灯影の家」モデルハウス会場住所 :
 栃木県小山市駅南町4丁目24-23

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