光合成
ぽーん、とブルーのゴムボールが空高く蹴り上げられた。
5歳の息子はともかく、3歳の娘も、こんなにサッカー上手だったっけ。
茂みの奥に入り込んだボールを見つけ出し、子どもたちのほうへ蹴り返す。
そこに「お肉焼けたよー」と、夫の声。みんなで走ってテントへ戻る。
「んー!今日のタンドリーチキン、過去最高の出来じゃない?」
「いつもは市販のカレー粉だけど、今回はスパイスを自分でミックスしてみたんだ」
夫は網から目を離さず、カチカチとトングを鳴らしている。その背中は、ちょっと自慢げだ。
こちらも夫お手製のスペアリブを頬張りながら、長男が言う。
「そういえば保育園の友だちに、よくキャンプ行くのなんで?って聞かれた」
「外で食べるごはんはおいしいからね。炭で焼く肉はやっぱり格別だよ」と、答える夫。
「えー、なんか食いしんぼう家族みたいじゃん」と、私。
お昼ごはんを食べたばかりだというのに、子どもたちはもう遊びに戻りたそうだ。
「今度はぼくがチビたちを遊ばせてくるから、ちょっと休んでなよ」
「助かる~、さっきのサッカーでヘトヘトなの」
シャボン玉やる!と走り出す子どもたちと、それを追う夫を見届け、
私は最近買ったアウトドア用のリクライニングチェアに深く腰掛ける。
見上げると、ぽっかりのんびり、雲がいくつも浮かんでいる。
どこからかウグイスの声。もう初夏なのに、まだ鳴いているんだ。
ぽかぽかとした陽気を全身に受けていると、
万年冷え性の私の手先、足先へじんわりと血液がめぐり出すのがわかった。
「そうか、空だ」
と、思わずつぶやく。
キャンプへ行きたくなる理由、それって空を感じるためじゃないかな。
もちろん空なんてどこでも見られるけど、街のなかに切りとられた小さな空じゃなくて
もっと広い空と向き合う時間が、人には、少なくとも私には必要な気がする。
そう、ちょうど植物が生きるために太陽の光を浴びて光合成をするように、
すこやかに生きるために私のなかの何かが、
もっと空を感じなさい、光を浴びなさいと言っているのかもしれない。
そんなことを考えていたら、何だか、まぶたが重くなってきた。
もうちょっとだけ、この暖かな光を浴びていよう。
あの元気な声で、子どもたちが呼びに来るまで。
KOHARE NO IE. Original story